昨晩ようやく読み終わりました。
まぁ短編だし気楽に読めるか。
などと思っていましたがそこは文学少女。
3時間くらいで読めるかと思っていたけど、
気づけば5時間以上もかかってしまいました。

今回もこれまで通り読むのに気合が必要ですね。
残酷で、それでいて清々しい読後感のある1冊に仕上がっています。


そんな挿話集3。主役は表紙にもなった竹田さんともう1人、鞠谷敬一。
今回はこれまで以上に書き下ろしが多く実に半分以上は書き下ろし。
それだけに本編に劣らない読み応えがありました。
竹田さん以外はこれまで脇の脇役だった人たちが中心の物語。
あまりに今回の2本柱である竹田さんと、鞠谷先生のそれぞれのお話の存在感が強烈で、
「今日のおやつ」などの心葉と遠子のお話が浮いているような気さえしてしまいました。

また、前回の挿話集2と同じように本編の裏側の出来事を、
心葉以外の人物の視点で補完するような内容も多々あり。
そういう意味では挿話集2のような外伝に近い短編集とも言えそうです。
本編を思わず読み返したくなるような描写が多々あり、
この記事を書く間にも色々と読みふけってしまい・・・大変でした。(主に天使的な意味で)

本全体としての感想はこんなところ。自分で言うのはアレだけど以下は完全に蛇足ですw
せっかく書き下ろしも多いので今回は全部の話を軽く語ってみます。
<以下ネタバレを自重しません。 未読の人はご注意を>








「文学少女」と炎を上げる牛魔王
挿話集1の「恋する牛魔王」の続編のようなもの。
かつてFBOnlineの「秘密の本棚」にも掲載されていました。
内容だけ見れば切ない片思いの話なハズなのに、
牛園君のキャラだとどうしてもギャグとしか見れなくなってしまいますw

ハッキリ言おう。1冊の本として見るなら確実にこの話は浮いている。
後半の鞠谷先生や竹田さんの話の重厚さから考えると、あまりに軽い。
そんなこの話を最初に持ってきたのは、全体を重くしすぎないよう、
バランスを取るためという意図があったように思えます。
そういう意味では、浮いているけれど必要な話なのでしょう。


「文学少女」の今日のおやつ ~好色五人女~・~谷間~
おやつは2つまとめて。今回は「こんな遠子先輩を見た」で始まる2編。
思わずクスっと笑ってしまうオチの2編が選ばれており、箸休めにはちょうど良い。
牛魔王とおやつとで、前半に軽めの話を集めていたように思えます。
これまでの挿話集と比べるとやや浮いているような気は正直しましたが、
終始あんなに重々しい話(後述)だけでも困りますよね。


「文学少女」と恋しはじめの女給
ここから書き下ろし。まずは姫倉家の別荘のメイド、魚谷さんのお話。
本編「水妖」の前半部分が、魚谷さんの視点で語られています。
心葉にきつく当たっていた裏では、こんなことを考えていたんですねぇ。
遠子と心葉を ゆりと昭良に見立てていたんですね。
現代の人を過去の人物と重ねてしまうのは、ある意味中学生らしい幼さからでしょうか。
見習いの「傷心」といいこの話といい魚谷さん可愛すぎですw
「水妖」と照らし合わせて読むと色々と面白そうです。
あと、散々言われているけど、93ページの最後の一行にはやられました。
秘密よ。大好きなの」は反則でしょう。


傷ついた紳士と穢れなき歌姫

ここからがこの本の本番。本編4冊目にあたる「天使」のスポットキャラ、
音楽の鞠谷先生とななせの親友である夕歌の出会いの物語。
時期的には心葉が1年生だった頃のお話ですね。
この話自体は別にそこまで重くなく、むしろ甘いのろけ話なのですが・・・
これが本編天使に続く序章だと思ってしまうと、もう切なくて切なくて。
思わず今日になって天使をぱらぱらとめくってしまいました。

大変良いお話ではあったのですが1つだけどうにも違和感が。
それはななせに好みの男のタイプを語る夕歌が「萌え」を連呼してたこと。
まぁ文学少女だってラノベだしこういう表現を用いることもあるんだろうけど、
なんか違うよなぁと感じてしまいました。そこだけはちょっと残念。

ちなみに中学時代のななせが見れる貴重なお話でもありますw
ななせの出番は今回はここだけ。まぁ前回は主役級だったし仕方ないか。


卵の歌姫と彷徨える天使
この挿話集でもっとも重い話と言って良いでしょう。
タイトルを見ただけでは「天使」本編の裏側を夕歌視点で語るものと思っていました。
それだけに本編以降の未来の話であったことには驚きましたね。
1つ前ののろけ話とのギャップがもうね・・・
詳しい時期は不明だけど、少なくとも心葉が作家活動を再開してからかなり経過しています。
もしかしたら心葉と遠子先輩は既に再会している頃かも知れません。
 
鞠谷先生から見たらあまりにも夕歌に重なりすぎるオペラ歌手を目指す高校生新田さん。
彼女から見ると鞠谷先生は歌を目指すきっかけを作った人物だったことが後に判明。
そんな2人が本編「天使」で臣君と夕歌がしていたのと見事なまでに同じやり取りをします。
しかも夕歌が臣君を「天使」と呼んでいたように、新田さんも鞠谷を「天使」と呼ぶ。
この微妙に役割・立ち位置を変えた話の重ね方、見事としか言えません。

新田さんに見える夕歌の面影、そして彼女に真実を知られてしまった鞠谷の苦悩、
触れてはいけない過去に、いけないと分かっていながらも触れてしまった新田さん。
そのせいでこれまでの関係を続けられなくなってしまった悲しさ、そしてそんな彼女の未来。
過去の出来事に重ねるという演出は文学少女ではお馴染みだし、
思いきり意図された構成なのはよく分かるけど、それでもこの一話にはやられました。
登場人物の様々な思いや葛藤が手に取るように伝わってくるし、
それでいて最後に見えた希望が、その先を色々と想像させてくれます。
そういう意味でも非常に文学少女らしい傑作だと思います。

それと、見習いの傷心エピローグでも少し触れられた鞠谷と夕歌を題材にした小説が、
井上ミウの第3作「天使が堕ちる音」であることも正式に判明。
その題材が自分であることを隠しながら話を聞くとかももうね・・・。
ちなみにこの「天使が堕ちる音」をななせが読んだら何を感じるのだろうか、
ということが自分としては1番気になりました。


遠子おばタンの秘密
流人と麻貴の子、悠人が生まれたちょっと後の話。
時系列的には見習いシリーズと同じ頃でしょうか。
前が余りに重すぎたので、こういう日常的なやり取りは休憩に最適。
とりあえず麻貴先輩は相変わらずとんでもない性格をしていました。
とても高校出たばかりの未熟な母親とは思えない貫禄ですww


迷える仔鹿と嘘つき人形
そしてここからは竹田さんのターン!中学校の先生になった竹田さんの奮闘記?です。
この一編もかつてFB Onlineの「秘密の本棚」に掲載されていました。

以前読んだ時も今回改めて読んでも、この話は「文学少女らしくない」と感じました。
その理由として1つ思い当たったのは、「この話だけはどこにも心葉も遠子も出ていない」
という点でしょうか。分かる範囲で調べてみたけど、恐らくこれに該当するのはこの話だけ。
この事実が、今月のFB Onlineの原作者インタビューで語られていた
「千愛は裏主人公というイメージ」の証明のように思えます。


頑張る仔鹿と臆病な旅行者
1つ前の話の続き。こちらは本挿話集での書き下ろし。
同じように心葉と遠子はまったく出てきません。
これは、竹田さんの先生シリーズの主人公となる仔鹿ちゃんの戦いの記録です。
1つ前の話は先生になった竹田さんの活躍を見る物語という側面が強かったのに対し、
このお話の主役は完全に仔鹿ちゃんに移っています。

それとこの話は思いっきり本編「道化」を意識して作られてますよね。
最初に読んだ時は気づかなかったけど、何回か読み直すとよく分かります。
微妙に役回り(立ち位置や行動)は違うけど竹田さんが遠子先輩、仔鹿ちゃんが心葉、
そして堀井さんが「道化」の頃の竹田さんにそれぞれ重なります。
特に終盤の陸橋での飛び降り説得シーンなんて、まんま「道化」の屋上シーンだよね。
仮面が剥がれて「もう生きていけない」と絶望する様子なんて、
まさに道化の頃の竹田さんじゃないですかと。
どうして最初に読んだ時に気づかなかったかなぁ(汗)

堀井さんの苦悩はかつて、というか今も感じている竹田さんの苦悩とある種同じですよね。
果たして彼女がそれに気づける日が来るのでしょうか。
「演じている」とか「仮面を被っている」なんていう感情は、
若かりし頃には程度の差はあれど誰しもが一度は感じることではないでしょうか。

また、この話が「道化」をなぞっただけで終わらない決定的な違いは流人の存在。
彼が色々と暗躍してくれるおかげで、この話にはまた違った味わいが生まれるというもの。
流人がいるからこそ、今作も竹田さんの成長物語でもあり続けた気がします。
それがよりハッキリと分かるのが次の「道化のつぶやき」です。


道化のつぶやき
「頑張る仔鹿と臆病な旅行者」を竹田さん視点で描いたものです。
仔鹿ちゃん視線だと分からない竹田さんの心の中の葛藤がこちらでは見え、
2人にそれぞれ働きかける流人の動きや思惑が見えてそれがまた面白い。
頑張る仔鹿~ではイマイチ見えなかった流人の行動の意図も、
全て意味があったということがここでようやく分かるように作られていますね。

仔鹿ちゃんの視線のだと何気ない一コマだった部分が、
実は物凄い意味を持っているといった二面性のある演出が実に憎い。
もちろん逆もまた然りで竹田さん視点だと分からない部分は、
既に頑張る仔鹿~で語られているわけで。
この演出の仕方はが竹田さんの持つ素と仮面のニ面性とも重なります。
これはまさに2つで1つになるよう作られたお話ですね。

「普通のことを普通に感じられない」ということもまた、
程度の差はあれど誰しも感じたことはあるのではないでしょうか。
そんな「無の感情」との付き合い方を少しずつでも学んでいる様子が非常によかったです。
第1巻にあたる本編「道化」からの彼女の成長が見れて、嬉しくなります。

そして最後のページの挿絵には、今回もしっかりやられました。
本編や見習いシリーズは最後の1ページで次巻への強烈な牽引力がありますが、
挿話集の最後は毎回ステキなイラストで締めてくれます。
今回も最後の1ページで清々しく終わらせてくれて、
重たかったけれど不思議と爽やかな読後感を与えてくれました。
2人の視点で物語を読めたからこそ、あのイラストも映えるというものでしょう。


あとがき
太字で文字も大きくしてまで書かれている野村先生の切実な主張に吹いた。
あの主張は主に映画から文学少女に入った人へ向けられたものでしょうね。
「とりあえず1番新しいのから読むか」と挿話集3を手にする人もいるだろうし、
映画の題材が巡礼者だからそれしか読まない人とかけっこう出てきそうだしね。
でもやっぱり文学少女は刊行順に読むのが1番だと思うんです。
見習いシリーズと挿話集はそうとも限らないけど、少なくとも本編はね・・・





○必要のないまとめ○
あれこれ書いたけど、要するに今回も楽しめましたってことですよ。
後は全編語る前に全て書きつくしてますw


○オマケ○
今月のFB Onlineの作者インタビューによると、ななせが臣君とくっつくのは明白でしたね。
それ自体は別に仕方ない気はするし「くっつけるな!」とは言えないけど、正直フクザツです。
「心葉が好きで好きで仕方ないななせ」が好きな自分としてはあぁもバッサリ言われちゃうとねぇ。
次回の挿話集4ではななせが臣君に会いに行く話が描かれるそうですが、
個人的にはそこはぼかしたままにして欲しかったです。。。
まぁ、出れば出たで喜んで読むけどね!!

次は見習いシリーズ完結編の「卒業」が順当にいけば8月末。
もちろんこれもとにかく楽しみですね♪


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