-あらすじ-
小劇団「シアターフラッグ」―ファンも多いが、解散の危機が迫っていた…そう、お金がないのだ!!その負債額なんと300万円!悩んだ主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。司は巧にお金を貸す代わりに「2年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」と厳しい条件を出した。新星プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員は十名に。そして鉄血宰相・春川司も迎え入れ、新たな「シアターフラッグ」は旗揚げされるのだが…。
メディアワークス文庫創刊の頃(2009年12月)から実は興味があった1冊。
結局あの当時は買わずに流れてしまったのですが、
ある日普段行かない書店でふと目に入り手にとっていました。
で、買ったはいいもののしばらく積んだままの状態でした。
それからまたしばらく経って読み始め、少し前に読破しました。
大筋の流れは上のあらすじの通りだけど、もっと端折るなら、
「弟が兄貴に300万借金して、それを返済するために兄貴が劇団の経営を変えていく」
といったお話でしょうか。
率直な感想は「なんでもっと早く読まなかったんだろう」という感じでした。
学生時代の友人に何人かそっちの畑の人がいるので、
昔は割とお芝居を観る機会には恵まれていました。
(もっとも、ここ最近はすっかりご無沙汰ですが)
なので小説としては未知のジャンルだったものの、
抵抗なく入っていけたのが大きかったような気はします。
ただ、それを差っ引いたとしてもとても面白く描けていると思います。
内容は濃密なはずなのに話のテンポがよくすらすらと読み進めるので、
休憩時間に少しずつ読んでいたハズなのに意外と短期間で読み終わってしまいました。
少しでも長く読むために飲み物頼んで休憩時間目いっぱい居座ることが増えたせいだと思われます。
芝居の描写と、お金のやり取りに関する部分がとてもリアルだと感じられました。
演劇部分のリアルさはモデルとなった劇団の主宰の方も解説で認めてたし、
きっと相当リアルに描けているのでしょう。
まぁちょっと客として観る機会が人より多かった程度の素人でも、
相当取材をしてみっちり描いたんだろうなぁということは感じられますね。
しかも著者はこの作品を書くまで全く演劇の知識が無かったというんだからねぇ。
つくづく作家ってのはすごい仕事だと思ったし、
この人の作品が人気が出るのもなんとなく分かる気がしました。
当然演劇の小説だしその部分に力を入れていたのは分かるのだけど、
自分がそれと同じくらいこの作品を面白いと感じたのがお金に関するやり取りでした。
小劇団の金銭事情という客の立場では中々見えてこない部分を、
劇団の主宰(平たく言えば責任者?)である弟の巧を使い、
読み手にも分かりやすく伝えてくれています。
それと同時に兄の司を通して劇団の世界の経済的なイレギュラーさを伝えています。
この主人公兄弟2人によって「劇団」という世界の在り方興味深く描いていると感じました。
そして、司がこの劇団が利益を出せるようにメスを入れていくわけですが、
その過程は見方を変えればすごく経済的な小説でもあると思えたのでした。
純粋にエンターテイメントとして楽しんで読んでいても、
債権者である兄の司の言葉は自分にも時々グサっと刺さることがあって。
そういった部分も含めてとても読み心地が良かったです。
思えば有川浩という作家の文章に初めて触れたのは「少女ノイズ」の解説でした。
参考:【http://34643.diarynote.jp/201007190210388989/】
あの解説のぶっ飛んだコメントは当時からかなり強烈に印象に残っていました。
随分と奇想天外かつ的確な解説を書く人だなぁ、とね(笑)
それからしばらく経ち、次に氏の作品に触れたのは昨年の秋、
2010年10月~12月に放送されたドラマ「フリーター、家を買う」でした。
ただ、この作品が有川浩原作であることを知ったのはドラマも後半になってからで、
あくまでドラマとして観ていただけで原作は未だ未読です。
何気なくスタッフロールを見てて「あぁこの人原作だったんだ」といった具合。
要するに純粋にこの人の作品を読むのは初めてだったということです。
なので特に先入観も持たずに読んでいたつもりですが、
こんなシビアで硬派な作品だとは思っていませんでした。
そんなわけで予想を良い意味で裏切ってくれた名作でした。
一般的には縁のない人が多いだろう小劇団の世界を垣間見るには最適な作品だと思います。
見たことのない世界を疑似体験するという、本の読み方の1つを深く感じた1冊でした。
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